『妄言師@無銘の銘柄.jp』アーカイブ

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綿矢りさ著『夢を与える』

夢を与える
視点がハッキリしない小説だつた。初めは幹子の視点かと思つたら、フランス旅行の後からは夕子の視点になり*1、それがまた徹底してゐるわけではない*2。夕子の視点かと思へば、編集中のディレクターとエディターとの会話や、ラストシーンの雑誌記者とカメラマンとの会話は神(作者)の視点だ。視点に一貫性がないのは意図的なのだらうか?*3
『インストール』『蹴りたい背中』と違ふ点は、主人公が処女でなくなつたこと(w  前作から3年、作者はきつと華やかな学生生活を送つてゐたのだらう、と推察される*4

名を知られなくなるのは悲しくも怖くもなかったが、死んだ名を背負いながらこの先、長い人生を歩んでいくのは大変だろうなと思った。芸名をつけておけばよかった。(201頁、5行目)

この小説を読んでゐる最中に、元・モー娘。メンバー解雇のニュースを観た。ニュースを観た後に読んだ2度にわたるセックス描写は、元メンバーのイメージが脳裏に浮かび読むのに苦労した*5。“死んだ名” を背負ふ元メンバーKに幸あれ。

「人間の水面下から生えている、生まれたての赤ん坊の皮膚のようにやわらかくて赤黒い、欲望にのみ動かされる手となら」(303頁11行目)

もしも、夕子に再起の道があるのならAVデビューしかないのではないか。最近グラビアアイドルがAVに転身するのも珍しくないから。ところで、多摩はどこでなにをしてゐるのか?  夕子のスキャンダルを、彼はどのやうに捉へてゐるのか?  妄言師は男だから、多摩の行方がとても気になる。

無理やり手に入れたものは、いつか離れていく。(301頁、14行目)

この小説を妄言師の言葉で説明すれば、若い女性に向けた教訓の書だ。男を無理に繋ぎ止めようとコンドームに細工をしても、すべての前提となる “愛” が失はれてはどうにもならない。・・・それでも女は同じことを繰り返すんだよね*6わかっちゃいるけど、やめられない・・・こんなフレーズが頭をよぎつたとき、下のニュースが飛び込んできた。

*1:“夕子は” を “私は” に置き換へることが出来る。

*2:年上のレースクイーンは “さん” 付けで、同じく年上のマネージャー沖島は呼び捨てである。

*3:文芸の老舗・河出の編集者もバカではないから、これで良しとするなら何か狙ひがあるのだらうが、妄言師には酌み取れなかつた。

*4:さういふ読み方を作者は最も望まないだらうが、彼女の若さがそのやうな想像を誘発させる。

*5:主人公はクォーターなので、元メンバーとは容姿が全く異なるのに・・・。

*6:それが、女が女である所以でもあるのだらうが。