『妄言師@無銘の銘柄.jp』アーカイブ

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総括『新選組!』脚本・構成篇

三谷幸喜さんが大河の脚本を書くと発表されたとき、途中で降板するか、誰かに手伝つてもらふかのどちらかになるだらうと思つてゐた。大河の脚本を書ける作家の条件には“ホンを書くのが早い人”といふのがあるらしく、どちらかと云へば遅筆の三谷さんには不向きに思はれたのだ*1。放送前には『竜馬におまかせ』の悪夢が脳裏によぎつたものの、三谷さん自身が「大河で育つた」と公言してゐるので、“大河ドラマの何たるか”は理解してゐるのだらうと、とりあへずは期待してゐた。
初回では、敵対する近藤・土方と竜馬・桂とが“一緒に黒船を見る”のが史実に反するといふ指摘もあつたが、その程度のことなら柳沢吉保大石内蔵助とが顔見知りといふ設定の『元禄太平記』の例もある*2。史実に縛られると歴史ドラマはつまらなくなるといふことを、ことし司馬遼太郎坂の上の雲』を読んで痛感した。
構成上ドラマを観てゐて辛かつたのは3月と5月。浪士組の話が持ち上がつた3月は、プロ野球ペナントレース開始が控へてゐるので視聴者に逃げられないやう面白くならなくてはいけないのだが、“1話1日”の縛りで話の進行が遅く、視聴者離れを起こしたのではないか。5月も幕府を中傷した立札を外した壬生浪士組初出動の回や、八木家の久の葬式の回などは、これこそ“手紙で振り返る程度”の事件なのにと思つた。それらの皺寄せで*3新選組転落の過程が急ピッチで進んだが、こちらのはうを時間をかけて叮嚀に描いて欲しかつた。
ただ全体的には面白かつたし、三谷さんの狙ひ通り小・中学生にはウケてゐた。無銘が小学6年のときに『独眼竜政宗』を観て以来“日曜8時は大河ドラマ”といふ習慣が身についたやうに、『新選組!』を観てから大河を観る習慣のつく人が少なからずゐると思ふ。三谷さんにはまた大河を書いて欲しい。

*1:それが証拠に早坂暁さんは、『天下御免』『夢千代日記』などNHKで多くの名作ドラマを手掛けながらも、大河を書いたことがない。遅筆ゆゑに業界内では“遅坂(おそさか)”と陰で呼ばれてゐるらしい。

*2:元禄繚乱』では大石と上杉家家老・色部又四郎とが知り合ひだつた。

*3:三谷さんは計算どほりと豪語してゐるが。