新潮文庫・ドストエフスキー『悪霊』改版
前から気になつてゐたのが題名の読み方。新潮・岩波両文庫では奥付に「あくりょう」とルビが振つてある。この小説の題名はルカ伝に因んでゐることはよく知られてゐるが、無銘の知る限り悪霊を「あくりょう」と読ませる聖書はない。必ず「あくれい」とルビが振られてゐる*1。新潮文庫版のエピグラフには文語訳が掲載されてゐるが、文語訳は「悪鬼」と訳されてゐるにもかかはらず、「悪霊(ルビはあくりょう)」に改竄されてゐる。改竄をしてまで「あくりょう」の読みにこだはる理由がわからない。なほ岩波文庫版のエピグラフは文語訳で「悪鬼」である。
余談だが、埴谷雄高さんは『悪霊』を意識して『死霊』をものしたが、これは「しれい」と読む。
参考までに、「あくりょう」の歴史的かなづかいは「あくりやう」。